東京大学教授 藤本隆宏様インタビューその2|ワンドイツに対する対抗策とは?
JMI生産・開発マネジメントコースの主任講師である
藤本隆宏様(東京大学大学院経済学研究科教授 東大ものづくり経営研究センター長)にお話を伺いました。
日本能率協会の安部武一郎がインタビューいたします。(以下敬称略、所属役職はインタビュー当時)
ワンドイツに対する対抗策とは?
安部
従来から地上戦が得意だった日本企業と、シリコンバレーに代表される空中戦をやっているところが、どうやってうまく手を組むべきなのか、そのかじ取りの難しさが高まってきたという解釈でいいですか。
藤本
そういうことだと思いますね。
一方では、上空世界のクラウドとコンピューティングとうまくつながらないと、特に中小企業の多くはうまくやっていけないでしょう。
そうやってICTネットワークとつながることで中小企業の商売のチャンスも増えるでしょう。
だから、中小企業は、上空との接続を拒否して地上に引きこもっている場合ではありません。
しかし、それはあくまで、地上での現場の強みを生かした上で、上空の空中戦の世界に自らをつないでいくことです。
むろん空中戦に参加するわけではありません。
その一方で、地上の現場の世界でも、データがこれまでよりはるかに多い量、とび回るようになるでしょう。
たとえば、これまでよりずっと多いセンサーを使って地面にある生産設備などからデータが湧き出してくるのです。
そうして湧き出してきたデータを、その瞬間に名前をつけて現場にとって意味のある情報にして、それを横や上、斜めに飛ばすという巨大な仕分け能力を持つコンピューティングパワーが、上空と地上の真ん中に当たる低空地帯つまりICT-FAインターフェース層に登場してこないといけないでしょう。
これが、工場内ネットワークやラインのインテリジェントという現象です。
この低空領域では、ドイツにはシーメンスがいますから、ドイツ勢はこの辺りから世界市場に攻め込もうとしているように見えます。
日本は「地べた」で強い。一方、米国勢はICTで制空権を握っているので、上からビックデータの爆弾を降らせようとしているのです。
このように、米、独それぞれが我田引水で、自分に都合の良いシナリオを書き、「将来はこうですよ」とそっちへ持ち込もうとしています。
そこで日本勢も自分たちの強みのある地上戦の世界にできるだけ引っ張り込もうとするしたたかさを持つ必要があります。
このように地上、低空、上空と分けてみた場合、最も舵取りが難しいのは低空のICT-FAインターフェースの部分だと思います。
そこに強い会社は日本にもありますが、何か、全体がまとまっていない状態です。
どの国も国としてはまとまらずにグローバルな合従連衡でいくというのならそれで良いのですが、どうやらドイツ政府はワンドイツでまとまって攻めてくるという構想です。
それがインダストリー4.0。
ドイツ企業は、必ずしもインダストリー4.0一辺倒ではないようですが。
それに対し、日本企業の工場内ネットワークが全くバラバラだと、完全に草刈り場になってしまうおそれがあります。
日本の役所が指導するワンジャパンはもう古いと普通ならいいたいところですが、相手方がまとまって改めてくるのなら、こちらもある程度のワンジャパンにまとまって対抗しなければ不利でしょう。
その結果、ICT-FAインターフェース層に関しては、地上の生産設備の稼働状況を反映するような形で欧州、日本、米国で「天下三分の計」みたいな形に持っていけば良いのではないかと思います。