東京大学教授 藤本隆宏様インタビューその3|ものづくりの強みをこれからも生かす為には?
JMI生産・開発マネジメントコースの主任講師である
藤本隆宏様(東京大学大学院経済学研究科教授 東大ものづくり経営研究センター長)にお話を伺いました。
日本能率協会の安部武一郎がインタビューいたします。(以下敬称略、所属役職はインタビュー当時)
ものづくりの強みをこれからも生かす為には?
安部
上空の米国に中空のドイツですか。
米国から見たときの話ですが、地上でリアルにものを作れる日本の強さは、彼らにとって必要なのでしょうか。
藤本先生は重要視されていると思いますか。
藤本
でしょうね。どんなにICTの世界が大きくなっても、われわれ生活者が重さのある人工物に囲まれているという事実は変わりません。
誰かがそれを作るわけで、新興国との賃金差が縮まった現在、日本の現場の競争力は上がっていると考えられます。
一方、重さのない世界ではコンピューティングパワーの方も、どんどん上がっています。
ムーアの法則もそろそろ限界かといわれながら、まだ続いています。
半導体の微細化も極限的なところに来ているといえるでしょうが、そうなると、日本の出番が増えるかもしれません。
日本の現場はまだまだ最先端のものづくりができます。
一時期は日本の技術が行き過ぎて過剰品質となり、安くて簡単な製品を作る国に負けていましたが、機能要求が極限化すれば、過剰なものが過剰でなくなることもあります。
半導体の中でも、メモリー半導体を見る限り、日本は韓国のサムソン電子などにあっという間に追い抜かれ、日本から半導体工場がなくなってしまうような状況に陥ったように見えましたが、意外とそうなりませんでした。
たしかに広島にある半導体記憶素子の工場は外資系に売られてしまい、何かもったいないことをした感じはありますが、産業としては広島に残っていますから、現地の人は仕事が残って喜んでいます。
フラッシュメモリーも、日本企業の本社はいろいろとありましたが、結局、今、フラッシュメモリーの世界最大の工場は日本の四日市にあります。
これは認識しておくべきでしょう。
こうしてみると、どんどん制約条件や機能要件が、際限なく厳しくなっていくものについては関し、日本のものづくりの現場にチャンスがあると思います。
例えば、高級トイレ機器は、節水が大きなポイントになります。
節水、省エネ、燃費、排ガスなど制約条件が際限なく厳しさを増していく世界では、設計者は本当に辛くなってくるでしょう。
しかし、そこを頑張ってしのげば、他の国の設計者はバンザイするしかありません。どこで設計するかも比較優位で決まるのです。
それが多配工・チームワーク型の現場が持つ日本の強みなのです。
ところが、そこにサイエンスが入ってくると、日本の会社は急に弱くなります。
サイエンスは世界中とネットワークでつながらなければならず、企業を超えた広い範囲での産学連携が必要になります。
自分の会社の中でわいわいやりながら、すり合わせ設計をするのは日本企業は得意ですが、サイエンス世界との連携は意外に苦手なのが日本の会社の特徴かもしれません。
社内のチームワークだけで何とかできる開発プロジェクトのときはいいのですが、それだけで対応できなくなると途端に弱くなってしまう傾向があります。
安部
日本はずっと技術を蓄積してきたので、自前主義的なところがあるようです。
外を見れば採り入れるべきサイエンスがたくさんあるのでしょうが、それさえも自分たちで作ろうとしています。
藤本
それはあるでしょうね。
だから社内の広報で共著者の所属を見ると、例えばキヤノンなら全員がキヤノンの人が書いています。
同業のニコンにしても同じです。
これに対し、欧州のASMLなどは完全に企業を超えたサイエンティフィックネットワークで対処しています。
日本企業は、こういった手法は概して苦手です。
欧州勢はこの点サイエンスの世界との連携がとても強いですから、日本企業はサイエンスの時代に入ったときの対応の方法を学ぶべきだと思います。