主任講師 慶應義塾大学大学院 坂爪 裕 様インタビューその1|コロナで日本の「ものづくり」はどう変わるのか?
MI生産・開発マネジメントコースの主任講師である坂爪 裕様(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 教授)にお話を伺いました。
坂爪教授は、本コースの「共同テーマ研究」の主任講師を務めるほか、小会が主催する「GOOD FACTORY賞」の審査員として活躍されています。
コロナの影響で変化にさらされている日本のものづくり企業の将来、そして企業経営者のあるべき姿はどのようなものなのでしょうか。坂爪教授が見据える日本のものづくりの未来と、そのための経営者の役割とは・・・・・・。
日本能率協会の斎藤由佳がインタビューいたします。(以下敬称略、所属役職はインタビュー当時)
コロナで日本の「ものづくり」はどう変わるのか?
斎藤
日本のものづくりは、新型コロナウイルスの影響により、大きな変化にさらされています。坂爪先生からご覧になって、日本の製造業は今後どのようになっていくと思われますか?
坂爪
今回の新型コロナウイルスの影響から見えてきたことは、一言でいうと、今までまったく考えていなかった新しい考え方や様式が突然生まれたというのではなくて、これまで徐々に変化しつつあった潮流が、コロナの影響で一気に世の中に広まり、定着しつつあるのではないかということです。
その1つが、情報をベースとした流動化社会への移行という観点です。
バブル後30年の日本を振り返ってもわかるとおり、世の中の流動化はどんどん進んできました。人材の流動化は言うに及ばず、ビジネス・コミュニケーション1つとっても、1990年代以前と以後では大きく変わりました。90年代以前は、電話とファクスが当たり前。それが90年代以降は、メール文化が生まれました。時間の制約なく、情報を瞬時に伝達できるようになったのです。とはいえすべてがメールに置き換わることもなく、電話、ファクス、メール、対面での打合せが組み合わされて選択されていました。
ところが、今回、コロナの問題が出て、3~4カ月で一気にオンラインでの打合せが一般的なものとなりました。電話と対面の間にweb会議システムという新たなメディアが追加され、急速に定着しつつあります。私の所属する大学では、授業のすべてをweb会議システム経由で行っている状況です。遠隔での同期化したコミュニケーションが劇的に加速したのです。
たしかに、これまでもスカイプなどのオンラインのツールは一部で使われていましたが、それは限定的なもので、多くはメールや対面でのコミュニケーションが一般的でした。
しかし移動制限がある中、これまでは対面が当たり前とされてきた会議や学び(学習)などが極めて短期間のうちにリモート環境に置きかわり、オンラインを通じて同期化して行われるようになったのです。
そうなってくると、これまで以上に情報が重要になってくると同時に、われわれはデマも含めて様々な情報にさらされることになります。当然、消費という側面を見ても、消費者はいっそう流動的になり、流行もうつろいやすく、変動が激しいものになっていきます。
たとえば、数カ月前のマスク不足を思い出してください。メディアやネットからの情報が世の中に広まったことで、人々が一気にマスクを求めてドラッグストアに行列をつくりました。
斎藤
売れるときは爆発的、しかし売れなくなったらそれまで、しかも次に何が売れるか予測が立てにくいという状況が随所にみられるということですね。
坂爪
マスクの事例は極端なケースではありますが、これこそまさに情報をベースとした流動化社会の1つの現れです。このような変動の激しい市場にどのように対応するか、これが今ものづくり企業の生き残りのために非常に重要になっています。
特に製造業は、物理的に“モノ”があることが前提となったビジネスモデルです。ものづくり企業には固定的な設備、固定的ライン、そして物理的な工程・作業が欠かせません。そのような中で、どう世の中の変動に対応していくのか、その際の1つめのキーワードが「フレキシビリティ」です。
ここで言うフレキシビリティとは、世の中の様々な変動に対して、単に対応できる力という意味ではなく、むしろ様々な変動に対して“ぶれない”度合いのことを言います。私は、このフレキシビリティ性こそが、これからの世の中で生き残っていくための必須の条件ではないかと考えています。
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