主任講師 慶應義塾大学大学院 坂爪 裕 様インタビューその2|生き残りをかける「2段構え」とは?

MI生産・開発マネジメントコースの主任講師である坂爪 裕様(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 教授)にお話を伺いました。

日本能率協会の斎藤由佳がインタビューいたします。(以下敬称略、所属役職はインタビュー当時)

生き残りをかける「2段構え」とは?

斎藤
フレキシビリティのあるものづくりとはどのようなものなのでしょうか?

坂爪
変種変量がより加速する中、品種の変更や量の変動に対応すること、製品ライフの短期化に対応して、開発から市場に出すまでのスピードを加速すること、また製造ラインの切り替え等のフレキシビリティなどが具体例になりますが、ここで重要なのは、単にこれら外部環境の変化に迅速に対応できるというのではなく、これらの変動に対して“ぶれない”経営を行えるか、これが真のフレキシビリティだと考えています。

逆説的ではありますが、変化に対応できる力という意味でのフレキシビリティ性は生き残るための条件ではありますが、ものづくり企業として勝ち続けるための条件ではありません。

例えば、フレキシビリティ性を高める1つの発想は、固定費を変動費化することです。しかし、固定費を下げる、これが極端になると、ものづくりに欠かせない設備と作業者を持たないメーカーという発想になってきます。よく言われるファブレス化です。たしかにこのようにファブレス化していく企業も増えていくでしょう。

しかし、私は、必ずしもこの考え方だけではないと思うのです。むしろ必要な固定費をかけ、いかに技術蓄積を行っていくかが、当たり前のことではありますが、メーカーとしては重要です。技術蓄積を行う中で人も育っていきます。先ほどのファブレス化は作業者を変動費化していく発想ですが、むしろ固定的に人材を雇用した上で多能工化を図っていく方向性になります。一定の固定費をかけ、技術蓄積・人材育成を行うことを通じて、様々な変動に対して“ぶれない”経営を行えるかが重要です。

そのためには、ムダな固定費を圧縮しつつ、必要な部分にはコストをかけ、技術蓄積・人材育成を行っていく必要があります。その際に重要な観点は、異なる様々な観点から共通項を見つけつつ、標準化していくことだと思います。たとえば、多品種であったとしても、製品開発、設計、部品の標準化・共通化を図るなど、まだまだ知恵を絞ることはあります。

斎藤
日本のものづくり企業は、製造現場での共通化を得意としてきました。それがこれからは、より上流工程での共通化、デファクトスタンダードでの価値づくりを強化する必要があるのですね。

坂爪
これからの日本のものづくり企業は、外部環境の変化に迅速に対応できるものづくりを追究する一方で、より上流工程での標準化・共通化を進めながら、ムダな固定費を徹底的に圧縮しつつも、必要となる技術を蓄積し、人材を育成していく、この2段構えで、勝ち残っていけるのではないか、そう考えています。

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